Masuk「え!? やったー!! わたしすごいって、そらくんっ!」
エルは満面の笑みを浮かべ、そらに飛びつくような勢いで喜びを分かち合った。その興奮は、周りの空気まで明るくした。
次にブロッサムが凛とした表情で前に出る。
「じゃあ、次はわたしの番ですわね」
彼女が魔力判定石に手を置くと、光の強さはエルと比べて少し控えめだったが、その光は揺らぐことなく安定していた。力の制御がしっかりしていることを示唆している。
「Dランク相当です。あなたも素晴らしいですよ」
受付嬢は柔らかな笑顔で評価を告げた。Dランクも、この若さでは将来性のある結果だった。
「……ありがとうございます」
ブロッサムはわずかに口角を上げて、控えめに礼を言った。その瞳には、自分の実力を認められたことへの密かな満足感が浮かんでいた。
ステフが少し緊張した面持ちで、小さく手を挙げた。
「次は、わたし……?」
そらが優しく促す。
「うん、お願い」
「分かりました」
ステフが意を決したように石に手を当てると、光は少し弱めに反応した。その光は、前の二人と比べると控えめな輝きだった。
「Eランク相当です。これは通常の結果ですので、どうかガッカリしないでくださいね。ここからが大事ですから!」
受付嬢は、ステフの不安を察したのだろう、励ますような口調で伝えた。Eランクは、平均的な魔術士の初期値としては珍しくない。
「……あ、はい。大丈夫です」
ステフは、わずかに安堵の息を吐きながら、少しだけ力なく返事をした。
次は……俺かぁ。
「次はボクです」
そらは平静を装って前に出たが、内心では激しく鼓動が鳴っていた。
彼は全神経を集中させ、念じる。抑えて、抑えて……できるだけ小さく、できるだけ弱く。そっと手をかざし、微量の魔力を注いだ。指先から、ほんの僅かな魔力の流れを感じた。
――ッパーン!!!
次の瞬間、突然の破裂音がギルド全体に響き渡った。目の前にあった魔力判定石が、凄まじい勢いで爆発した。破片が飛び散り、カウンターの床に散乱する。受付嬢は驚愕で口を塞ぎ、目を丸くしている。
……え!? な、何!? なんで!?!?
そらの頭の中は、真っ白になっていた。完璧に制御したはずの魔力が、なぜこんなとんでもない結果を招いたのか、理解できなかった。
受付の女性が、突然の爆発に驚愕で固まっていた状態から、慌てて立ち上がる。その顔は蒼白だった。
「す、すみません!! おケガは!? すぐに替えを持ってきます!」
女性はすぐさま奥へ走っていき、新しい測定器を震える手で持って戻ってきた。
「再測定をお願いします」
そらの額には、冷や汗が滲む。彼は意を決して、再び魔力制御に挑む。抑えて……抑えて……頼む、割れないでくれ。できるだけ、できるだけ弱く……と必死に念じて、魔力判定石にそっと手をかざした。
――ッパーン!!!
二度目の甲高い破裂音がギルド内に響き渡り、新しい判定石も無残にも砕け散った。
……またか。
そらは、絶望的な気分に襲われた。周囲のハンターたちが、完全に沈黙してこちらを見つめているのを感じた。
「すみませんっ!! 今度は大きい魔力判定石を持ってきますので、少々お待ちください!」
受付の女性は、ほとんど悲鳴に近い声を上げて、再び奥へ走り去った。その女性の代わりに、今度は職員が二人がかりで、先ほどよりも少し大きめの魔力判定石を慎重に運んできた……が、その直後。
「おいおい、魔力判定石が“亀裂”や“割れた”んじゃないだろ。“破裂”したんだろ? だったらそれじゃダメだ。もっと大きいの持ってこい!」
声をかけてきたのは、どこか偉そうな雰囲気を纏ったギルド職員の男だった。彼の眼差しは、そらの異常な魔力に興味津々といった様子だ。すぐに指示を飛ばし、今度はなんと五人がかりで、特大サイズの、まるで小さな岩のような魔力判定石が重々しく運び込まれてきた。
「これに魔力を込めてみろ」
職員の男は、興奮した様子でそらを促した。そらは、その特大の石を前に、深い溜息をついた。
……もう逃げ道はないらしい。彼は、観念したような表情を浮かべた。
「……は、はい」
そらは弱々しく返事をし、諦めにも似た覚悟で特大の魔力判定石に手をかざした。
彼は全身の魔力回路を締め上げ、これでもかってくらい魔力の放出を抑えているんだけど……
魔力判定石は、そらの魔力に反応し、すぐに嫌な音を立て始めた。
ピキ……ピキピキ……
石の表面に、細かな亀裂が走り出すのがはっきりと見て取れた。そして、次の瞬間、
パーーンッ!!
特大の判定石が、耳をつんざくような大きな音を立てて砕け散った。破片が飛び散り、凄まじい魔力の残滓がギルドの空気に満ちる。
今度こそ、ギルド内は完全に静寂に包まれた。
ギルド職員が目を丸くして、驚愕と興奮が入り混じった声で叫ぶ。
「はっ!? お前、どんだけ魔力あるんだよ! あはは……すげぇーな!」
場の空気が一瞬凍りつき、次の瞬間、まるで堰を切ったようにどよめきが起きた。周囲のハンターたちは、信じられないものを見るかのようにそらを見つめる。
そらは、無防備なエルの姿を前に、理性と本能の狭間で揺れる。湯気の中とは違う、寝起き特有の無防備さが、彼の心臓を早鐘のように打たせた。 (あと、もう少しで見えそう……じゃなくて起きよう!) 彼は、これ以上意識を集中させるのは危険だと判断し、強い意志で気持ちを切り替えた。 二人の可愛い寝顔と、温かい重みを背後に残し、そらはそっとベッドから抜け出す。ギシッというわずかな音も立てないよう、細心の注意を払って、静かに部屋を出た。(さー、今日は何をしようかな~) そらは、新しい朝の空気を吸い込みながら、今日の予定を頭の中で巡らせた。女の子たちには護身用の銃も渡してあるし、結界も連絡もできているから安全だ。 ギルドにでも行くか? 探検に行くか? 魔法の特訓? 穏やかな日差しが差し込むリビングで、皆がぞろぞろと目を覚ましてきたので、朝食を取ることになった。 テーブルにはふっくらと温かいパン、彩り豊かな新鮮なサラダ、湯気を立てる濃厚なスープ、そして瑞々しいフルーツが並んでいる。焼きたてのパンの香ばしい匂いと、スープの芳醇な香りが、食欲をそそった。 エルが待ちきれない様子で手を伸ばして、パンをひとつ取ると、ブロッサムがにっこりと優雅に笑って「おはようございます」と言い、皆に食事をすすめてきた。「さあ、皆さま。温かいうちにいただきましょう」 皆は思い思いの笑顔で席につき、賑やかな会話と共にフォークとスプーンを動かし始める。「このスープ、美味しいね!」「このパンは甘いのです!」といった、弾むような声が飛び交い、リビングは朝の幸福感に満ちていた。そらが温かいスープを一口飲みながら、みんなに聞いた。「みんなは今日、何をしたい?」 エルがパンにバターを塗りながら、口いっぱいに食べ物を頬張ったまま答える。「冒険かなぁ」 その声は期待に満ちていた。 ブロッサムは優雅に、ゆっくりとスープを飲みながら、大人の意見を提示する。「ギルドじゃないかしら? 来てほしいって言われていましたし」
「……わたしも好きです。ですから、わたしもお隣で一緒に寝ますわ」 そのブロッサムのまっすぐな告白に、エルは驚きと悔しさを滲ませる。「えぇ!? なんでぇ~! ずるいよー! とぉーっても、ずるぅぅぅいよぅ!」「早い者勝ちですわ」 ブロッサムは、勝利を確信したかのように、わずかに口元を緩ませた。 急展開だな。そんな素振り、まったくなかったと思っていたのに……。そらは、戸惑いながらも、急速に変化する彼女たちの感情の動きに、胸の奥がざわつくのを感じた。 ふと、ブロッサムがこちらを見つめてきて、ほんの少し微笑んだ。その微笑みは、昼間のお風呂での照れ隠しの表情とは打って変わり、どこか挑発的で魅力的だった。「今日は、ぷにぷにはないのですか?」 えっ!? そらは予想外の言葉に、驚いて聞き返す。「……いいの?」「はい。もちろんですわよ」 ブロッサムは目を逸らすことなく、静かに断言した。その返答は、彼女の内面の変化を如実に物語っていた。 すると、エルがまた大きな声をあげる。その声には明確な嫉妬が込められていた。「えぇ!! もっとズルイ! すごくズルイよ!」 エルが抗議する間にも、ブロッサムはそっと顔を近づけてくる。薄い紫色のサラサラとしたウェーブのかかった髪が、そらの頬をかすかにくすぐった。大きな紫色の二重の瞳が、近くでそらを見つめる。 キレイだな。 そらは、間近にあるブロッサムの美しさに、思わず見とれた。 そっとブロッサムのほっぺをぷにぷにっと触ると、その柔らかく温かい感触が指先に伝わった。 同時に、エルがギャーギャー騒ぎ出す。「ちょっとぉ! ずるいってばっ! わたしも! わたしもなの!」 仕方ないので、そらは片手でエルの頬もぷにぷに。エルは抗議の声を上げながらも、気持ちよさそうに目を細めた。一瞬、納得いかない顔をしていたが、満足げな表情に変わり、静かになった。 そこ
そらは思わず笑みをこぼす。うん、知ってた。この返事は想定内だよ。 怒られなかっただけ、優しさが増した……のかもしれない。彼は、ブロッサムの微妙な変化を嬉しく感じていた。 たしか、ブロッサムも貴族なんだよな。あんまり表に出さないけど、所作の一つひとつに品がある。湯船に浸かっている姿でさえ、どこか優雅な雰囲気を纏っている。普段は気づかないけど、実は同年代よりスタイルいいし、可愛いし……。 そらが泡を流しながらふと彼女の横顔に目をやると、ブロッサムは湯船の縁に肘をついて、頬杖をつきながらぼんやりと湯気の向こうを見ていた。その長い髪は湯に濡れて肩に流れ、色白の肌を際立たせていた。けれど、その視線は時折そらの方へと揺れていて、何かを言いたげな気配があった。 ……明日も一緒に入ってくれるかな。 そらは、満たされた温かい気持ちと共に、淡い期待を抱いた。 そんなことを考えていたら――「皆ずるーいっ! 居ないと思ったらお風呂にいたぁー!」 脱衣場の戸が勢いよく開け放たれ、明るい声と共にエルが突撃してきた。湯気が立ち込める浴室内に、眩しいほどの存在感を放つ。 遅れて来たエルは、いつものように無自覚で、何も隠すことなくそのまま浴室内へと足を踏み入れた。濡れて光る白い肌が、湯気の合間から視覚的に飛び込んでくる。彼女の健康的な肢体は、少女らしい弾力と丸みを帯びており、水滴を弾く様が鮮やかに目に焼き付いた。 ブロッサムは「きゃっ!」と小さな悲鳴を上げ、慌てて湯に身を沈めて顔を隠す。一方のエルは、そんな周囲の反応など気にする様子もなく、屈託のない笑顔を浮かべたまま、そらのそばまで無防備に駆け寄ってきた。その奔放な姿が、浴室の熱気と共に、そらの視界いっぱいに広がった。「ちゃんと声かけたよ?」 そらは、呆れたような表情を浮かべながら答えた。 エルがぷくーと頬を可愛く膨らませて文句を言ってきた。その仕草は、全く悪びれる様子がなかった。「聞こえなかったもんっ!」 そんなエルを軽
……でも、普通リビングにあんな大きなベッド置かないよね? いや、小さなベッドすら普通は置かないぞ? 彼の頭の中で、常識的な思考が警鐘を鳴らした。この家は、もはや彼の知る一般的な「家」の範疇を超えていると、改めて認識した。――そして夕方。 暖かな日差しが西に傾き、家の中がオレンジ色に染まり始めた頃、そらはすっきりとした声を上げた。「お風呂に入るよー!」 誰に言うでもなく、リビングにいる皆に向けて大きな声で宣言しながら、清潔なタオルを手に脱衣場へと向かった。新しく作ったばかりの広い風呂場は、彼にとって一日の疲れを癒す楽しみの一つだった。 お風呂に湯をためながら、そらは服を脱いでいた。温かい湯気が立ち込め始め、肌に微かな湿り気を感じる。そのとき――見慣れない気配にハッと振り向くと、脱衣場に新顔が立っていた。「……あれ? ブロッサム!? 一緒に入るの?」 そらが驚いて声をかけると、ブロッサムは真新しいタオルを胸元に大切そうに抱えながら、すっと顎を上げてこちらを見返す。その仕草はいつもの気高さを保っていたが、その瞳はわずかに揺れていて、頬にはうっすらと朱が差していた。湯気のせいだけではない、微かな緊張が彼女の表情から読み取れた。「いけませんか? お風呂、広くなったんでしょう?」 言葉は理路整然としていたが、裏腹に、彼女はタオルの端をぎゅっと握りしめている。その小さな指先の白くなっている様子からも、そらの視線を強く意識しているのが伝わってきた。彼女の淑やかな振る舞いと、内に秘めた恥じらいが、脱衣場の空気をほのかに甘くしていた。「いや、別にいいけどさ……目のやり場に困るんだよね」 そらが苦笑しながら、正直な気持ちを言うと、ブロッサムは一瞬だけ目を見開き、すぐにそっぽを向いて、長い髪をかき上げた。その仕草は、動揺を隠そうとする精一杯の虚勢だった。耳の先まで赤く染まっていて、照れ隠しの仕草が露骨だった。「では、目をお瞑りになって入ればいいのではなくて?」 その言
一通りの作業を終えたところで、エルが満足げな笑顔から一転、指をぴょこっと上げる。「ねぇねぇ。リビングに大きいベッド、ないのぉ?」 彼女は、純粋な疑問といった表情でそらを見上げた。「もう必要なくない? 各自の部屋にベッドあるでしょ?」 そらは、意図が分からず首を傾げた。個室とベッドを用意したのだから、リビングで寝る必要はないはずだ。「えぇ〜〜〜」 エルから、心底不満そうな声が漏れる。すると、アリアがすかさず勢いよく乗ってきた。「必要だと思うのです!」「うん、必要だと思うの」 と、ノア。二人は、エルに同調するようにそらに訴えかける。 まさかの……「必要だと思いますの」 と、優雅な口調のブロッサムまでが、きっぱりと賛同した。彼女たちの間には、強い結束が生まれているようだった。「……うん。必要……ですね……」 と、蚊の鳴くような声でステフまでが控えめに賛同した。彼女は、皆の意見に逆らうことができず、少し戸惑いつつも頷いたようだった。 え、マジで? そらは、予想外の全員一致に、驚きで目を丸くした。個室を用意したのに、まだリビングで一緒に寝たがっているという事実に、彼の思考は追いつかなかった。 (なんでだよ!?個室作った意味ないじゃん!)と内心で叫びつつも、そらは少女たちの純粋な眼差しに抗えない。彼女たちの「必要」という声には、抗いがたい説得力があった。彼の常識と、この幼い「家族」の理屈が、いつも微妙にズレている。でも、それがどこか心地よかった。このズレこそが、彼にとっての新しい日常であり、満たされた時間だった。 リビングはかなり広く作ったから、スペースに問題はないけど……みんな、部屋のベッドはどうするんだ。 そらは、深く考えるのをやめて、観念した。仕方ないので、魔法でさらに大きなベッドをリビングの隅にゆったりと設置した。そのベッドは
すると、エルが先ほどの「便利だね」発言のことを思い出した様子で、不安そうにそらを見上げて聞いてきた。「ねぇ……怒っちゃった? そらくん?」「怒ってないよ、大丈夫だよ?」 そらは、彼女の頭を優しく撫でて安心させる。そらの腕に寄り添うようにエルが近づき、にこっと顔を覗き込んでくると、甘えた仕草と声で甘えてくる。その表情は、まるで子猫のように可愛らしい。「じゃあ、ほっぺぷにぷにしていい〜?」 エルは、上目遣いでそらを見つめた。「意味が分かんないって……ほら、帰るぞ」 そらは、困ったように笑いながら、エルの甘えを軽くあしらった。しかし、その声には突き放すような冷たさはなかった。「ねぇ〜ねぇ〜、そ〜ら〜く〜んっ!」 エルは諦めずに、そらの腕にさらに体重をかけて、楽しそうに甘え続ける。その声は、まるで子守唄のように明るい響きを持っていた。 そらは、そんなはしゃぐエルをなだめつつ、後ろで微笑んでいるブロッサムとステフと共に、にぎやかに町を後にする。市場の喧騒を背後に、4人の影が並んで伸びていった。 周囲に不審な気配がないか探索魔法で慎重に確認しながら、そらは先導する。湿った土の匂いがする洞窟を抜け――無事に、彼女たちが待つ我が家へと帰ってきた。「「「「ただいまー」」」」 4人の声が揃い、家の中に温かい響きをもたらす。「お帰りなさいなのです」「お帰りなさいなの」 アリアとノアが、満面の笑みで、ぴょんと跳ねるように出迎えてくれる。その姿は、まるで待ちわびた小動物のようで、そらたちの帰宅を心から喜んでいるのが伝わってきた。「良い子にして、二人で待ってたのです」 アリアは、誇らしげに胸を張って報告した。 エルとブロッサムは、町やギルドでの出来事を、身振り手振りを交えながら楽しそうに話し始めた。新しい服の話、そしてそらが特大の判定石を粉砕した衝撃的な出来事まで。「スゴくスゴイなのです!」「いっぱい